新井由己の仕事帖

2004年02月05日 (木)

自家採種ハンドブック −「たねとりくらぶ」を始めよう


自家採種のノウハウが詰まったバイブルが登場

 2002年2月下旬に『自家採種ハンドブック』の翻訳本が発売された。原著者はオーストラリアで種子の保存運動をしているミッシェル・ファントンとジュード・ファントンで、農業の多様性を守るために1986年に設立された「シードセーバーズ・ネットワーク」の中心的存在だ。2000年夏、日本に講演活動に訪れたミシェルとジュードは「栽培植物の減少、種の独占、F1や遺伝子組み換えの問題、伝統的な種のメリット」などを訴えて歩いた。そして各地の農家や市民がそれに呼応して、今回の日本語版の発刊へとつながったのだ。
 第1部「種とりの目的」ではF1種に賛成かどうか、遺伝子組み換え種子の予期しない影響などが述べられ、第2部「種とりの基本」では、「どんな種子を守っていくか?」「交雑の防止と種子の生産」「選抜と収集」「採種のあとは」など、自家採種するときのポイントがまとめられている。
 そして本編といえる第3部では、62品種の採種法が整理され、各野菜ごとに「起源、解説、栽培、採種、保存、利用、品種と系統」が説明されている。原著のうち日本で栽培が一般的なものを抜粋し、国内で重要な11種も新たに加えたうえ、栽培や採種の方法も日本の実情に沿うように細かく見直されている。また、珍しい野菜やハーブなどの64種の採種法も簡単に紹介してある。
 第4部では、種苗店や伝統野菜の情報機関、市民団体、実践農家のリストが掲載されていて、自家採種に興味を持った人がだれでも連絡できるようになっている。
 福島県の在来のエゴマを栽培している農家や、トルクメニスタンの原種メロンと会津在来の瓜を交配して販売している農家もネットワークに加わっている。
 けれども、自家採種はやはり手間がかかるし、畑の一角を占有されてしまう心配もある。
 40種類以上を自家採種している姫路の山根成人さんは言う。
「たしかに手間はかかるけど、そこに残しておかないで一か所に集めて植え替えればいいんです。品種によっては、植木鉢でも平気」
 埼玉の田下農場では、有機農業の経営のなかで、自家採種の道を模索している。
「市販の種を使えば予想どおりの野菜が採れますが、自家採種だと品質が安定するまでそれが読めないんです。でも、ゴマは二〜三年後に多種性で実のしっかりしたものができました」
 また、自家採種による品質のムラは、消費者への直接販売なら理解してもらえるが、顔の見えない範囲になるとまだ「品質が悪い」と評価されてしまうようだ。
 長崎の岩崎政利さんは「自分で採った種で育てた作物は『私の野菜』」だと胸を張る。本来、在来固定種は、篤農家が優れた目で選別して作り上げた「個定種」でもあるのだ。
「種子をとる人は、自分が必要とする以上の量をとるのが普通です。余ったものを分かち与え、自分ではとる余裕のなかった品種、有機栽培や自然農法に適した珍しい品種と交換するのです」(原著者)
 この本は、自家採種の方法を知ると同時に、伝統野菜を守る人たちのネットワーク作りへの第一歩でもある。オリジナルの日本版が出ることを期待したい。
ルポライター 新井由己

※『地上』(家の光協会)2002年6月号より転載

著 者/ミシェル・ファントン、ジュード・ファントン
訳 者/自家採種ハンドブック出版委員会
発行所/現代書館
発行日/2002年2月20日
定 価/2000円+税
A5判・256頁・並製
ISBN4-7684-6816-0

オンライン書店bk1で
購入することができます。
1500円以上で送料無料!
手数料なしのコンビニ払いも選べます。
続きを読む
↑Top: 投稿者 あらい/遊民 | ブックレビュー
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?






     Copyright 2006-2012 ARAI, Yoshimi All rights reserved.