新井由己の仕事帖

2004年02月16日 (月)

泥だらけのスローライフ 

 数年前に「定年帰農」という言葉が登場したころ、僕は農的生活をめざす若者たちに関心を持っていた。その後、同じく農文協が「青年帰農」という冊子を発刊。僕の取材テーマは、とうとう時代に追いつかれてしまった。
 農の世界に向かう若者たちは、少しずつだが着実に増えている。これから本格的に農業を始めようとするよりも、自給自足をベースに何か好きなことをしたいと思う人が多いようだ。
 いずれにしても、これから農業なり自給自足なりを始める場合、農薬や化学肥料を使った従来の方法(慣行農法)ではなく、有機農業がベースになることは間違いない。有機農場で研修をしたあとに就農するパターンが定着している。
 この本は、「WWOOF日本」というグループの代表が、自分たちの活動内容を一般に伝えるためにまとめたものだ。WWOOF(ウーフ)というのは、Willing Workers On Organic Farms の頭文字で、「有機農場で働きたい人たち」という意味らしい。
 WWOOFの活動は1971年にイギリスで始まり、今では世界の約20か国に事務局が設置されている。日本で本格的にスタートしたのは2002年からで、約30軒のホスト(受け入れ農家)が登録している。一方、有機農場で働きたい人たちのことを、ウーファーと呼ぶ。
「ウーファーは自分の希望するホストと相談し、一泊でも一週間でも一か月でも、さらに長期間でも農村に滞在することができる。この間、ウーファーが労働力を提供する代わりに、ホストは三食と宿泊場所を提供する。金銭のやりとりはない」
 なんともユニークでシンプルな仕組みではないか。有機栽培は、近代的な慣行農法と比べると、明らかに手間がかかる。落ち葉や家畜のふん尿から堆肥を作ったり、雑草を手で抜いたり虫をつぶしたり、作業量は2〜3倍に増えるだろう。
 本書の腰帯には「3食+宿泊=畑しごと」という公式が出ている。ウーファーは労働力を提供する代わりに、ホストは宿泊と食事を与えるという意味だ。けれども、ボランティアはちょっと違う。WWOOFはあくまでも両者が対等なのだ。
 この考え方は、日本の農村にあった「結(ゆい)」と呼ばれる共同作業にも通じる。田植えにしても、手作業の時代は、集落の人たちが集まって各家の田を順々に植えていった。機械化の時代でも、手伝いに来てくれた人に料理や酒をふるまうこともある。このほか、各地で導入されている地域通貨も同じ発想かもしれない。
 著者の星野紀代子とグレン・バーンズは、20代のころにオーストラリアで知り合った。その後、世界各地の旅を続けながら、自分たちの生きる場所を探し始めた。その旅の途中にWWOOFを知り、新婚旅行はオーストラリアの農場でのWWOOF体験だった。
 日本に戻ってからは、英会話教室を開く一方、WWOOF日本の事務局を立ち上げた。
「生きる人たちの基本である『農』に興味を持ち始めた人たちをぐいっと引っぱり、人間にとって大切なものは何かということを、少しでも多くの人が考えられるようにしてあげたい。私たちがそうであったように、人は大きく変わることができるのだと思っています」
 10代から30代までの若きウーファーたちが、何も思って田畑に立ち、泥にまみれるのか。そして彼らを受け入れるホスト側は、何を期待しているのか−−。「自分さがしの農の旅」は、WWOOFのネットワークで世界へつながっている。

WWOOF日本
http://www.wwoofjapan.com/japanese/index-j.shtml

著 者/WWOOF日本、星野 紀代子、グレン・バーンズ
発行所/実業之日本社
発行日/2003年8月8日
定 価/1500円+税
B6判・222頁・並製
ISBN4-408-41643-6

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