新井由己の仕事帖

2004年02月03日 (火)

TOKYO KITCHEN /トーキョー・キッチン

 98年のデビュー作『TOKYO OMNIBUS/一人で来た東京』(リトル・モア)を見て、「やられたな」と思った。上京1年生をテーマに、自らも信州から通い、危ういけれども着実な地方と都市のつながりを感じさせ、都市に向かう若者の気持ちを描いたいい本だった。
 個人誌を出すことが高じて今の仕事をしている僕は、意識的に文章から自分のことを削ぎ落としてきた。けれども、20代の目標であった文章の“技術力”をほぼ達成した今は、逆に、自分のことを少し表に出そうと思い始めている。いってみれば、30代は“表現力”の向上が目標だ。
 『TOKYO OMNIBUS』を読んで、小林さんは、ルポのなかに自分を出すバランス感覚にたけている人だなと思った。そして、今度は「キッチン」がテーマである。読み始めてすぐに、そのバランス感覚がより洗練されているのに気づいた。編集者の意見も反映されているのだろうが、それは本の構成や目次の立て方や扉のコピーなど、随所に感じられた。途中のレシピがたんなるレシピではなく、調理ルポになっている点もよかった。
 僕は、『日本海のイカ』(足立倫行・情報センター出版局、新潮文庫)を目標にしているが、この『TOKYO KITCHEN』も同じように、僕の指針となったようだ。いや、年齢が近いせいか、足立さんには感じなかった“ライバル意識”が芽生えたかもしれない。
 独り暮らしを始めたばかりの人が最初に向かい合うのがキッチンであり、そしてそのキッチンの姿には、東京で自分の生き方を見つけていく過程が凝縮されていると著者は言う。生活の基本が食にあるとするならば、キッチンや冷蔵庫の中身を見れば、一瞬にしてそれがわかるのである。

著 者/小林キユウ
発行所/リトル・モア
発行日/2000年2月10日
定 価/1300円+税
四六判・270頁・並製
ISBN4-89815-016-0

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