新井由己の仕事帖

2004年03月05日 (金)

巡る楽園 −四国八十八ヶ所から高野山へ

 昨年12月、三好和義・写真展「巡る楽園 四国八十八ヶ所から高野山へ」を見た。会場に入って最初の写真を見たときに、その不思議な質感にとりこになった。「このプリントは何だ!」と思っていたら、阿波和紙にエプソンのインクジェット・プリンタ(PX-10000)で印刷したという説明があった。エプソンの顔料インクのプリンタの実力は、新宿のepSITEに何度も通って実感していたが、和紙との組み合わせは初めてだった。
 重いザックを背負ったまま会場を2周し、けっきょく荷物を預けて、もう一度じっくりと見ることにした。なかでも、会場中央に飾られた3m近い巨大プリントは仏像の原寸大ではないかと思えるほどで、その迫力に思わず涙がこぼれそうになった。
 三好和義は「楽園」シリーズで知られる写真家だ。これまでも何度か写真を目にすることはあったが、正直なところ、きれいなリゾート写真という印象しか持てなかった。ところが、吉野川を撮った『ぼくのふるさと』(1998年、小学館)や屋久島の森をまとめた『世界遺産 屋久島』(2000年、小学館)を見てから、少し気になる存在になっていた。そして今回の四国遍路の写真で、僕のイメージは完全に逆転したのである。
 徳島生まれの著者は、子どものころから巡礼者が町を歩いているのを目にしていた。「菜の花、鈴の音、お接待」がセットになったイメージがあった。特に「春は『お遍路さん』の季節」で、母親や近所の人たちは、鈴の音がするとミカンやお餅を手渡していたのを覚えているという。
 1998年、著者はチベットのカイラス山へ撮影に行く。砂ぼこりにまみれて五体投地をしている巡礼者の幸せそうな表情を見て、「そういえばこういう情景は徳島にもある」と思った。
「カイラス山で感じていた気配のようなものを、屋久島でも感じながら、考えながら撮っていました。(略)10年かけて屋久島の本を作り、やっと八十八ヶ所を撮る時期が来たなと確信したのです」
 その人にしかできない仕事、いや、天に呼ばれた仕事というものがある。この本は、「空海がつくった楽園」を表現するために、徳島生まれの写真家が選ばれたということなのだろう。だとすると、声をかけたのは、弘法大師・空海なのだろうか。
 3年間をかけて、4万キロを走破し、88のすべての寺から特別な許可を得て撮影を続けた。撮影はできる限り自然光で行ない、スポットライトやストロボは使わなかったそうだ。ときにはろうそくの炎で撮影したこともあった。
 写真展でもそのことは触れられていたが、ライティングされている写真もあり、それはどうやって撮ったのか疑問だった。この本の巻末にある「撮影メモ」を読むと、色調が変わらない撮影用の蛍光灯を1本だけ使って、長時間露光したと書いてあった。「普通のきれいな風景写真ではなく、神聖な雰囲気を撮る」ために、著者がこだわった部分である。
 四国遍路は、一度回れば終わりではなく、何回も巡りたくなるという。しかもそれは同じところをずっと回っているのではなく、螺旋状にだんだん昇っていくような感覚だと、著者は説明する。
 非公開の秘仏を含む300点による写真集をあらためて1枚ずつ眺めるていると、写真展の感動が蘇ってくる。最後の写真は、高野山の奥の院・弘法大師御廟。八十八ヶ所を回って「結願」したあとに、高野山へ詣でることで「満願」する。機会があれば、ぜひ写真展にも足を運んでもらいたい。

著 者/三好和義
発行所/小学館
発行日/2004年1月10日
定 価/3000円+税
A5判 ・351頁・並製
ISBN4-09-680623-4

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