新井由己の仕事帖

2004年03月08日 (月)

山もりのババたち −脱ダム村の贈り物

 徳島県那賀郡木頭村−−。「ダムに反対する小さな村」として、以前から気になっていた場所だった。この本の著者も、新聞記事をきっかけにして、「どんな村だろう、どんな川だろう、どんな人たちが住んでいるんだろう」という気持ちを抱いたようだ。
 そして1995年の夏に木頭村を訪ねてみた。「深い山々の緑から流れ出る川を見て身震いするほど感動」し、「巧みに暮らし(文化)を築き上げてきた山の民」にも興味がわいてきた。
「私たちの知らない、ここでは当たり前の暮らしを、もっと知りたい、見てみたい、できることなら自分たちもそんな暮らしに近づきたい——」
 けっきょく著者は、家族揃って木頭村へ移住してしまう。初めて木頭村を訪ねてから、4年後のことだった。当時はダムの反対闘争の真っ最中だったが、人々の暮らしはそれとは無関係に思えるほど平和に見えた。
 けれども、ダム建設の推進派と反対派の間には、少しずつ亀裂が生じてくる。これはどの地域でも必ず聞く悲しい現実だ。著者も、移住してから少しずつそのことに気づかされ、心を痛めていく。
 2000年11月、ダム建設完全中止が決定。「行政史上初めて小さな村が国の巨大公共事業計画を跳ね返した」。僕はそのことをニュースで知り、ほっと胸をなで下ろした。しかし、“ダム問題”はそれで終わらなかった。
 中止決定の2か月後、藤田村長が社長を勤める「きとうむら」が、柚子の皮を山林に不法投棄したとして県警から処分を受ける。自動車や農機具、産廃扱いの工業用シルト(砂と粘土の中間の細かさの土)が放棄されているのは何も言わず、自然に還りやすい柚子の皮が問題にされた背景には、数か月後に迫った村長選挙があった。そんな“裏工作”の影響もあって、翌年4月の村長選ではダム推進派の候補が当選する。
 再び、木頭村に公共事業の波が押し寄せ、村を二分した“ダム問題”は、このまま終わりなく続くのだろうか。そんなときに、「山のババたち」が立ち上がった。「ダム闘争の苦労を無駄にせられん(できない)」と、村議会を傍聴し、県知事選挙や村議会選挙の宣伝活動を行ない、「きとうむら」の株を買い上げて村民セクターにしよう走り回った。
「木頭のこれからを思うと胸が苦しゅうなる。〈きとうむら〉を守ることは子や孫や村を守ることじゃ」
 第1章の「アクション編」では、政治とはまったく縁がなかった「ババたち」の、そんな奮闘ぶりが見事に描かれている。議会のヤジに腹を立て、議員に嘆願書を手渡し、県知事選の応援に駆けつけ、柚子皮事件の裁判を傍聴し、日本のODAでダムに沈んだフィリピンの村人の言葉に涙を流す。
「社会も環境も悪化の一途をたどり、ちまたでは気が滅入る事件ばかりが頻発している。何をしても無駄なのかな−−ふと、そんな無力感に襲われる。でもそんなとき、どんな苦境に立たされても『おもっしょうなってきたのぅ』と、不敵に笑っている素敵な山のババたちがいることを、ぜひ思い出してほしい。きっとあふれんばかりの元気を分けてもらえるから」
 後半に当たる「山暮らし編」は、「ババたち」の日々の暮らしをスケッチしたものだ。これこそ、木頭村に移り住んだ著者が描きたかった世界なのかもしれない。ほのぼのとしたイラストや、四コマまんがが楽しい。タイトルの「山もり」は、「山守り」と「山盛り」の意味があるそうだ。思わず、もっともっと、日本の田舎の魅力を描いてほしいと注文したくなってしまう。
 PCJF(平和・協同ジャーナリスト基金)の第9回平和・協同ジャーナリスト基金賞・奨励賞を受賞した好著。

著 者/玄番真紀子(文と漫画)
発行所/凱風社
発行日/2003年3月3日
定 価/1600円+税
B6判 ・219頁・並製
ISBN4-7736-2705-0

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