新井由己の仕事帖

2004年03月18日 (木)

「書く」ための「聞く」技術 

 昨年春に出版された『質問力』(斎藤孝/筑摩書房)がベストセラーになっている。よいコミュニケーションは「質問力」から生まれるという主張で、ページをめくりながら「なるほど」と感心させられたが、その一方でもの足りなさも感じていた。
 その穴を埋めてくれたのが本書である。タイトルからわかるように、「書く」ことを前提とした「聞く」技術の指南書だ。著者は、歌舞伎役者・精神科医・植木職人など、35年間で1500人以上をインタビューした経歴の持ち主で、そのノウハウがわかりやすく紹介されている。
 けれども著者は「決してマスコミ志望者のための副読本ではない」と言う。現代社会は「『聞く』という行為がいつの間にかないがしろにされてしまった」と嘆き、「お年寄りや子どもといった弱者の声が届かない世の中になった」と心配する。
 国会でのヤジの応酬やテレビ討論での意見の食い違いは、見ていてバカバカしくなってくる。家庭内でも、夫や妻の愚痴を聞くこともなく、子どもやお年寄りの言葉にも耳を傾けない。
「一人ひとりが他人の話に真剣に耳を傾け、そして、わからないことを静かにたずねたそのあとで、自分の意見を言うようになったら、この世の中はずいぶん変わってくるだろう」
 第1章では「聞き手はどうあるべきか」が解説され、そこで聞き手のレベルは1から3に分けられている。レベル1は人の話をしっかり聞く能力が問われる。レベル2は「尋ねる」能力を鍛える段階だ。この部分が「質問力」に当たるのだろう。レベル3に到達すると、何をどう聞いて、どういうふうに質問をすればいいのかわかってくる。この段階になると、反論して「別の観点から意見を引き出す」ことも可能だ。
 かつての『朝日ジャーナル』元編集長・下村満子は、インタビューの秘訣を「語り手と聞き手の関係は太鼓と撥の関係」と説明する。目の前にある太鼓(語り手)を響かせられるかどうかは、聞き手が撥をどう使うかによるのだ。
 第2章では、刑事や新聞記者、カウンセラーや医師にインタビューを行ない、「聞く」ことを職業にしている人たちからヒントを得る。取り調べで自白させるための刑事の技術、取材したことをまとめる新聞記者の技術など、具体的で参考になる。カウンセラーは「この人なら話してもいい」と思わせる人間性が必要だと説明する。聞き書きの巧者は、「内科医の『言葉』は、外科医の『メス』と同じ」という言葉を医師から引き出した。
 最後の第3章では、聞いたことを書く技術がまとめられている。著者が行なった故・三木のり平のインタビューを元に、テープ起こしのママの文章を、朝日新聞の「ひと」欄風、雑誌インタビュー風、聞き書き風に書き替える実例が載っている。
 「聞き書き」という言葉は耳慣れないかもしれないが、著者の説明によると、「取材」は聞き手が聞きたいことを聞き、「聞き書き」は語り手の話したいことを聞くところに違いがある。このところ自分のインタビューが単調になっていたのは、ごく普通に「取材」をしていた点に理由がありそうだ。
 インタビューは「相手の記憶を蘇らせる行為」だという。話を始めると、過去の経験のなかで鮮明に記憶していることがまず頭に浮かぶ。それを著者は「記憶の島」と呼び、それ以外の記憶は“水面下”に沈んでしまっていると説明する。
「私にとっての『聞き書き』は、先の例でいえばインタビューを通して、水位を少しずつ下げていくことによって島の数を増やし、やがては日本列島そのものを浮かび上がらせようということである」
 断片的に現れる「記憶の島」を地続きにすること。それがインタビューの最大の魅力なのかもしれない。聞き手の側もメモを取らず、「大事な部分を頭のなかで記憶しようと必死で試みる」。インタビューを終えたあとに、記憶を文字にしていくわけだ。念のためにテープに録音するが、それは最後の確認のために使う程度にする。
 最後まで読むと、「質問力」が大事なのではなく、「どう聞くか」という聞き手の姿勢が問われてることがよくわかる。思わず、近所のお年寄りから昔話を聞きたくなってきた。

著 者/小田豊二
発行所/サンマーク出版
発行日/2003年7月5日
定 価/1400円+税
B6判 ・255頁・並製
ISBN4-7631-9527-1

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