新井由己の仕事帖

2004年07月08日 (木)

メロンパンの真実 

 ここ数年、メロンパンが人気らしい。新宿高野のクリーミーメロンパンは、1個160円。1日3回の焼き上がり時間から10分ほどで売り切れてしまう。その数、なんと1300個。マスクメロン果汁を練り込んだ生地をビスケット生地で包み、中にはメロン果汁入りのカスタードクリームがたっぷり。高級果物店が作った究極のメロンパンといえそうだ。
 1998年ごろから、女子高生の間で「メロンパンで幸せになれる」という噂が流れていた。メロンパンを通学カバンに入れていたそうで、なんとも不思議な現象である。ひたすらカバンに入れておく派と、彼のことを考えながら食べれば両思いになれる派に分かれたようだ。
 それにしても、子どものころから疑問だったのは、メロンパンのどこが「メロン」なのかである。同じことを考えた著者は、辞書でメロンの定義をひもとき、そのルーツを遡る。そしてメロンパンの由来を調べていくうちに、3つの通説が浮かび上がった。焼き上がりの表面がマスクメロンに似ていたという説、高級なメロンが買えないからその代わりに考案されたという説、ビスケット生地に使われるメレンゲがなまってメロンになったという説、である。しかしそう簡単に結論は出ない。
 科学ジャーナリストである著者は、日本のパンの起源を調べ、ときどきあんパンやクリームパンに寄り道しながら、メロンパンの歴史を少しずつひもといていった。帝国ホテルの伝説のパン職人を知る人を訪ね、外国人が経営していた明治時代の横浜ベーカリーに足を運ぶ。そして西へ東へと、まるでメロンパンに翻弄されるように食べ歩くのである。
 米国移民が広島にメロンパンを持ち帰ったという説を調べるため、呉市に降り立った著者は、「元祖メロンパン」を皮切りに、精力的にメロンパンを食べ歩く、いや調べ歩いた。本文に出てくるだけでも7軒の店があるので、食べたメロンパンの数はいくつになったのだろうか……。
「これだけのパンを一泊二日で胃袋におさめた不肖トウジマ、当時三十九歳。その晩、質素なビジネスホテルの一室でおなかを抱えて冷や汗をたらし、ウンウンうなったことはいわずもがな、である」
 著者の情熱は、特許庁に乗り込んでメロンパンの特許または実用新案登録を探すところに至る。特許庁の相談員を巻き込んで、メロンパンのルーツをさぐっていく。その結果「奇妙キテレツなアイデアパンのオンパレード」を拾い出し、洋食パンのルーツと思われる実用新案を見つけ、ついに「パン生地にケーキ生地をかぶせるパン」の実用新案登録にたどり着いた。そこに「メロンパン」の文字はなかったが、その製法はメロンパンそのものだった。
 あんぱんとジャムパンは木村屋が発明し、クリームパンは中村屋が創造したという。けれども、メロンパンのルーツはいまだ謎に包まれたままだ。それはまるで、メロン模様のビスケット生地が、なぜメロンなのかという最初の疑問に引き戻されるようだ。
 ちなみにメロンパン1個は240キロカロリー。油で揚げてあるカレーパンでさえ220キロカロリーだ。ご飯一膳、チキンナゲット5個、肉じゃが一人前より、メロンパン一個のほうがカロリーが高い。
 メロンパンをそれほど好きでなかった僕だが、この本を読み終えて、近くのコンビニに飛び込んで思わずメロンパンを買ってしまった。「ひとつで240キロカロリーか」とつぶやきながら……。

著 者/東嶋和子
発行所/講談社
発行日/2004年2月20日
定 価/1600円+税
B6判 ・277頁・並製
ISBN4-06-212278-2

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