
30代後半からもの忘れが激しくなった気がする。というより、それ以前に「もの覚えが悪くなった」のかもしれない。夜になって、今日一日の出来事を覚えていなかったり、昼に何を食べたか思いだすのに時間がかかったりする。「もう年だな」と思ったり、「ボケが始まったのか」と、寂しい気持ちになるのは、僕だけではないだろう。
脳の仕組みを勉強したり、記憶のメカニズムを覚えようとしても、自分には理解できないかもしれない。そんなことを思いながら本書を読み進めていたら、18ページ目に「記憶」と「感情」は深い関係があるという話が現れた。この部分を読んで、僕は「なるほど」と膝を打ったのである。何かに感動した経験はなかなか忘れないし、おいしいものを食べればその店を人に勧めたくなる。この本は信用できる、と思った。
脳細胞は2〜3歳のころがピークで、その後はどんどん減少していく。単純計算で1日10万個近い神経細胞が死んでいるそうだ。そんな話を聞くと、自分の脳細胞がどんどん減少し、その影響で「もの忘れ」が激しくなったのではないか、もしかしたらアルツハイマー病への第一歩なのでは、と思ってしまうのもしかたない。
ところが、本書によると、毎日10万個の神経細胞が消滅しても、仮に100歳まで生きたとして、失われる数は「たった3.6パーセント」らしい。脳細胞の半分くらいが死んでしまうイメージは、大きな勘違いだったのである。また、記憶力の衰えは、神経細胞が減っていくことと無関係だという。
脳の研究で知られる監修者の池谷裕二氏は次のように訴える。
「日常生活でど忘れしてしまうことは、全体の記憶の容量を考えれば、わずかな量にすぎない。仮にみなさんが一日で数十回ものど忘れを経験したとしても、それは全体から見ればたいした問題ではない。……それなのに、どうして人は些細なことにこだわり、落胆してばかりいて、自分の脳が本当はいかにすばらしい性能を発揮し続けているかという真実に目を向けないのだろうか」
人間の脳は忘れるようにできていて、覚えようという意識がなければ覚えられないようだ。目に見えるもの、耳に聞こえるもの、体に触れるもの、それらをすべて記憶していたら、たちまち脳はパンクしてしまう。だから、必要なもの意外は忘れる(覚えない)ようになっているのである。
「もの忘れが増えてもそれに悩んだり、不安になったりする必要はありません。人間は忘れる動物なんだと気楽に受け止めてください。忘れたら思い出せばいいのだし、何度も思い出しているうちにしっかりと記憶されます」
著者の言葉は非常に簡潔でわかりやすい。第1章「なぜ、ものを忘れるのか?」、第2章「ヒトがものを記憶する仕組み」、第3章「これで万全! もの忘れを防ぐ日常習慣」、第4章「試してみよう! 記憶力をアップさせる方法」と読み進めると、忘れることに対する不安が消え、新たに何かを覚えたくなってくる。
著 者/夏谷隆治
監修者/池谷裕二
発行所/三修社
初 版/2005年9月10日
定 価/1500円+税
四六判・240頁・並製
ISBN4-384-03676-0
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目次を読む
●目次
はじめに
プロローグ もの忘れに悩む人、悩まない人
・「このごろバカになってきた」という不安
・子どものころだって覚えることは苦手だった
・脳を知り、記憶のメカニズムを知ろう
・大切なことさえ忘れなければいい
・もの忘れに気がつくのは脳が元気な証拠
第1章 なぜ、ものを忘れるのか?
・もの忘れは年のせいなのか
・もの忘れはアルツハイマー病の始まりなのか
・もの忘れは認知症の初期症状なのか
・怖いのは若い世代に増えている若年性健忘症
・あなたの脳は衰えていないか
・心配しなくていい「もの忘れ」と要注意の「もの忘れ」
・覚えることが多すぎれば、忘れることも増えてくる
・もの覚えがいいとはどういうことか
・脳がエキサイトしたことは忘れない
・朗らかで話好きな人はもの覚えがいい?
・人と話す機会が減ったら危険信号
・他人まかせのクセがつけばもの忘れが増える
・脳はつねに快感や感動を求めている
・もの忘れの原因は退屈な生活スタイルにあり!
・二〇代にももの忘れは忍び寄る
・もの忘れは「感情の老化」から始まる
・何も覚えなくていい生活にハマっていないか
・自分の脳を緊張させる習慣があるか
・「晴れ、ときどきもの忘れ」と気楽に構えよう
第2章 ヒトがものを記憶する仕組み
・記憶は脳の神経回路がつくっている
・記憶の鍵を握るのはシナプス
・シナプスは強化される
・シナプスはどんなときに強化されるか
・いまの出来事は記憶できないが、過去は覚えている!?
・記憶は、種類ごとに別の場所に保管されている
・覚えたつもりでも、半日後にはほとんど忘れてしまう
・「記憶の干渉」という作用
・記憶違いはどうして起こるのか
・上手に切り替えながら勉強すると、学習効率がアップする
・潜在記憶を確実に定着させる復習の方法
・記憶はどのような過程でストックされるのか
・短期記憶——記憶できるのは七個まで?
・作業記憶——短期記憶よりもう少し長い記憶
・長期記憶——その気になれば無限の貯蔵が可能
・大脳の仕組みを見てみよう
・記憶は脳のどこに保存されているのか
・海馬の隣にも記憶の重大な鍵がある
・必要のない脳細胞は毎日捨てられている
・神経細胞を増やすことはできるのか
第3章 これで万全! もの忘れを防ぐ日常習慣
・最初の一歩は元気な脳をつくること
・どうやって脳に刺激を与えたらよいか
・大きな筋肉を鍛える
・いくつになっても歩く人はボケない
・デジカメは思い出す訓練に最適
・「昼休みの楽しみ」をおろそかにしない
・よく噛んで食べると記憶力が高まる
・朝ご飯はしっかり食べよう
・旅をするなら個人旅行よりパックの団体旅行がいい
・人に読ませる字を書く習慣を取り戻そう
・音読で脳にゆったりしたリズムを取り戻させる
・読書は自分の記憶と出会う刺激的な旅
・懐かしい歌を大きな声で歌ってみる
・五感を総動員する料理で脳を鍛える
・元気な脳はデンプン質がつくる
・長時間、脳にエネルギーを補給してくれるデンプン
・忙しいときには果物を食べて脳を元気にしよう
・大豆食品は脳の万能薬
第4章 試してみよう! 記憶力をアップさせる方法
・脳の潜在能力に個人差はない
・「覚えたつもり」「面倒くさい」は記憶の大敵
・子どもはなぜ、ポケモンのキャラクターをすぐに覚えるのか
・好奇心こそ記憶の原動力だ!
・自分の興味のアンテナに引っかかるものを探す
・覚えたことは人に話してみよう
・考えるときには徹底的に考える習慣をつける
・なんとなく目を通すだけでも記憶の助けになる
・エピソードや経験として覚えると記憶が長持ちする
・記憶法には適齢期がある
・まずイメージでとらえるのが大人の記憶法
・無意味なことも有意味化すれば覚えやすくなる
・自分にピッタリのテキストを一冊だけ揃えよう
・経験は記憶を助ける心強い武器
・魚油に含まれるDHAに注目してみよう
・楽しみな計画を散りばめて生活に張りを持たせる
・塊で覚える「チャンク化」ならたくさん記憶できる
・自信と意欲と集中力で記憶力を伸ばそう
監修者あとがき——東京大学大学院薬学系研究科助手 池谷裕二
おわりに
参考文献
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投稿者 あらい/遊民
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