新井由己の仕事帖

2008年04月10日 (木)

正しいしゃれこうべの抱え方 

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■最後に彼女が手にしたもの

私は、裂傷の両側から手を差し込み、爪を立てた。メリ、と音がして傷口が簡単に裂けた。目玉と神経、そして筋肉が切れ、道に転がり落ちた瞬間、頭蓋骨に残ったのは、大きな暗いくぼみだった。そのくぼみの汚れをきれいに拭き取ると、私がずっと望んでいたもの、「一番愛するものの白い頭蓋骨」が、腕の中に出現した。(カバー見返しより)

 ホラー小説なのか、スプラッター描写が特徴なのか、いささか不安を感じる一方で、白い頭蓋骨を抱えたカバーイラストの不思議な暖かさが気になって、本書を手に取った。
 満員電車に座っているスキンヘッドの男性に主人公が目が止めたところから、物語はゆっくりと動き始める。退屈しのぎに隅々まで観察しているうちに「想像」が「妄想」になってゆく。
「後頭部に刃物でザクリと一本の切れ目を入れる。その切り口に両手を突っ込み、頭の皮をきれいに剥ぎ取って、脳味噌や目玉をほじくり出して、きれいに洗ったその真っ白な頭蓋骨だけを抱えてみる」
 男性の頭を思わず触りそうになったころ、降りる駅のアナウンスで主人公は現実に引き戻される。主人公の八重桜(ヤエホ)は30代の女性。8歳年下で俳優志望の彼・土折男(トキオ)との生活は、OLと役者という社会的地位を反映するかのように、微妙な関係で成り立っていた。その均衡が崩れたのは、彼がオーディションに合格し、これから演じることになる大正期の洋画家の肖像画を見てからである。画家が手にしていたのは、真っ白な頭蓋骨だった。
 著者はあとがきのなかで「選ぶものと選ばれるものは同等の力で引き合っている」と書いている。八重桜と土折男が引き合っていた力が“何か”によって崩されたとき、物語は転がり落ちるようにクライマックスへ向かった。
「見事に完全な形で、土折男の頭蓋骨が私の前に姿を現した」
 舞台の幕が下りてみれば、ホラーでもスプラッタでもなく、身が裂けるようなリアルな恋の物語だった。お互いに引き合っている力がバランスを崩したとき、何をすればいいのか? 何をすればよかったのか? ひょっとして「正しいしゃれこうべの抱え方」というタイトルは、その答えを示しているのかもしれない。

著 者/白木朱音
発行所/イデア出版局
初 版/2008年3月23日
定 価/900円+税
新書判・248頁・並製
ISBN978-4-900561-58-8

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