インドへ行ってきます! 

今年は「日印交流年」(日印文化協定締結50周年)で、日本とインドがそれぞれの国において記念事業を実施しています。昨年は「南インド料理」に注目が集まり、中華料理のように、インド料理にも地域性があることがだんだん知られてきました。
 3月8日から25日にかけて、インド・スパイス料理研究家の香取薫が、以下のテーマでインドへ向かいます。インドの家庭料理を日本で初めて紹介し、15年以上の料理教室の実績を持つ彼女に同行して、まだあまり知られていないインドを取材してきます。

■北インドのヒンドゥー寺院に伝わるピュア・ベジタリアンの料理
 タージマハルが建つアーグラのヒンドゥー寺院で、伝統的なインドの精進料理であるピュア・ベジタリアンの料理を学びます。通常の菜食料理と違い、ニンニクやタマネギも使用しない僧侶階級の伝統的な食事です。
 ニンニクやタマネギは精力剤なので、神に近づくためには修業の妨げになるそうです。それらを使わずに、素材の味をスパイスで最大限に引き出す食文化というのが、ピュア・ベジタリアンです。インドには昔からありますが、一般的なペジタリアン料理と違って、レシピはあまり知られてなく、海外ではほとんど紹介されていません。
 中国の精進料理は、美食に飽きた王族たちが健康のために作らせたものが始まり。野菜中心でも、味も見た目も食感も肉や魚にそっくりなものを作らなければいけませんでした。いってみれば「もどき料理」なんですね。
 インドの精進料理は、素材の味を最大限に引き出すスパイス使いのほか、ニンニクやタマネギを使わずにコクを出すテクニックなどが特徴です。それはレストランや家庭で作られているものと違い、毎回100〜200人の食事を用意するヒンドゥー寺院の調理場で代々ひっそりと作り続けられてきた寺院ならではの一流料理なのです。

■ケーララ州のアーユールヴェーダセンター
 アーユールヴェーダの治療をするリゾート要素を備えた施設に、患者以外の外部の人間(取材やプレスを含む)が初めて入れることになりました。香取がインド料理研究家で日本アーユールヴェーダ学会会員であることから、今回は特別に1泊2日の滞在を許されたのです。
 現地のロイヤルファミリーの屋敷をドイツ人建築家(ケーララ在住)がリニューアルし、リゾート地としてもゆったりできる雰囲気を備えています。同センターでは、麻や綿でできた衣類やワラでできた草履など、身に付けるものすべてが支給され、アーユールヴェーダの原点である「自然との調和」に配慮されています。
 これまでのリゾートで体験できるアーユールヴェーダは、エステと同列に考えられてきました。やせるために来ている人、体内浄化を目的にする人、持病を改善するために来ている人など、患者の目的はさまざまですが、“生命の科学”と呼ばれる伝統医療の体系であるアーユールヴェーダのケアをきちんと受けることができ、なおかつリゾートとしてゆったりできる施設はあまりありません。
 滞在費(アーユールヴェーダの治療を含む)は最低14日間の滞在コースで6000〜9000ドルと高額ですが、提供される薬膳料理に大きな特徴があります。現代の調理器具をまったく使わずに、すべて土鍋で作られています。油も塩も使わず、スパイスを最小限に抑え、素材の味をできるだけ、そのまま引き出す調理法で、植物学も学んでいる総シェフが作る料理は、ここでしか味わえません。

Kalari Kovilakom(カラリ・コビラコム)
http://www.kalarikovilakom.com/

■ケーララ州の家庭に伝わる伝統料理
 インド南西部に位置するケーララ州は、スパイス農園が多く、インド1位の生産量です。大航海時代にスパイスの富をめぐって、早くから西洋人が入ってきました。ユダヤ人もやってきて、それぞれの文化が折り重なった歴史があります。そのときに、無理な融合をせず、現地の食事や伝統文化を残しつつ、独自の文化を形成してきました。
 アジアで最初にキリスト教の布教があった土地で、人口の4割近くがクリスチャン。なかでも「シリアン・クリスチャン」と呼ばれる人たちは、もっとも早くキリスト教を受け入れ、一二使徒の一人である聖トマスによって改宗した人々の末裔という伝承があります。
 伝統のインド料理のスタイルを崩さずにキリスト教の祭礼料理を作ったり、宗教的なタブーで牛肉や豚肉を使えないほかの宗教と違って、自由なインド料理を作っている点が大きな特徴です。
 現在、シリアン・クリスチャンのレシピ本が一冊だけ発刊されていて、今回はその著者の家を訪ねて伝統料理を学ぶことになりました。シリアン・クリスチャンのコミュニティ内(パーライ村)にある家はホームステイを体験できる施設になっており、料理教室も開催されています。
 また、プランテーションによるゴム園が主産業で、昔から裕福だったことから、食材を惜しみなく使い、食文化が発展してきたという背景があります。季節的に果物が豊富に出回るため、マンゴーやジャックフルーツ、バナナの花などを使った、見た目も美しく珍しい料理が学べるでしょう。
 暑い土地なので、食欲を出すために辛さと酸味をポイントにし、豊富に実るココナッツを使ったマイルドなテイスト。南インドのなかでも、ただ辛いだけではなく、独特な味わいがあります。「西洋料理=ビーフ」と聞くだけで多くのインド人は拒絶してしまいますが、食にタブーがないケーララ州では、ビーフのほかにバッファローも使います。このようなインド料理はケーララ州にしかありません。
 キリスト教では、パンはキリストの体、ワインはキリストの血と考えられています。シリアン・クリスチャンがインドで生み出したものは、「アッパム」という米粉の蒸しパンと「パル」という赤いスープ状のソース(ヤシ砂糖とココナッツの味)でした。これは「最後の晩餐」のときに食べられたパンとワインに見立てられ、宗教儀礼の際に作られるそうです。
 さらに、アーユルヴェーダの本場のため、「薬膳」の概念が生活や料理のなかにしみついています。ヤギからとったスープは産後の女性に向くなど、素材の使い方ひとつひとつに意味があり、アーユルヴェーダと西洋の考え方がうまく融合している土地といっていいでしょう。
 余談ですが、バックウォーター(ヤシの木の間に広がる水路)やチャイニーズフィッシングネット(漁に使う巨大な網)を目当てに、多くの観光客が訪れています。

■インドに行ったらコレ食べて!
 日本人が持つインド料理のイメージは、こってりしたカレーにタンドリーチキンとナン。国内のインド料理店は北インド料理を出す店が多く、タンドールを使わない南インド料理店でさえ、しかたなくタンドール料理やナンを出しているほどです。ここ数年、南インド料理店が増えてきたこともあり、ライスで味わうインド料理や、ヘルシーなベジタリアン料理があることも知られてきました。
 それはともかく、インドに行っておいしい料理を食べようと思っても、どの店で何を食べたらいいのか、あまり詳しく紹介されていません。インドには、現地でしか食べられない本当においしい料理がたくさんあり、注文の仕方さえわかれば、それが味わえるのです。せっかく行くなら楽しみたいと思いませんか?
 例えば、デリーの人たちに人気の一流タンドール料理店を訪ね、メニュー内容や注文方法を紹介したり、どうやって食べるのか、どういう組み合わせがいいのかなど、インド料理研究家ならではの視点で紹介します。もちろん、インドの食文化がどうやって成り立ってきたのか、歴史的なウンチクも併せて解説します。
 一方、インドには屋台料理もたくさんあります。インドに行かないと食べられないマニアックな料理を、初めての人でも簡単に味わえるように案内します。
 デリーやアーグラを中心にした北インドのメニュー、ケーララ州を中心にした南インドのメニューなど、各地域の料理の違いも楽しめますし、複数のカレー(惣菜)が入った定食(北ではターリー、南ではミールス)などの違いを紹介することもできます。

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